35歳になってから、メイクに対する考え方が少しずつ変わってきた。
20代の頃は、とにかく盛ることが好きだった。
目元はぱっちり見せたいし、まつ毛は長く見せたい。肌の気になる部分はファンデーションでしっかり隠したいし、チークもリップもきちんと色をのせたい。
メイクをすればするほど可愛くなれると思っていたし、実際に鏡を見るのが楽しくて仕方なかった。
美容部員として働いていた頃も、新しいコスメが発売されるたびに試して、今日はどんなメイクにしようかなと考える時間が大好きだった。
でも、35歳になった今、昔と同じようにメイクをしても、なんとなくしっくりこない日が増えてきた。
若い頃は似合っていた濃いアイラインが、今は少しきつい印象に見える。
シミや毛穴を隠そうとしてファンデーションを重ねると、時間が経ったときに目元や口元の細かいシワが目立ってしまう。
目を大きく見せたくてアイシャドウを重ねても、なぜかまぶたが重たく見えることがある。
メイクを頑張ったはずなのに、すっぴんに近い日のほうが若々しく見える気がする。
そんな経験をするたびに、少し複雑な気持ちになっていた。
もちろん、35歳だからといって、急に老け込んだわけではない。
ただ、肌の質感や顔立ちの印象が少しずつ変わってきたことで、似合うメイクのバランスも変わってきたのだと思う。
それなのに私は、20代の頃の自分を基準にして、足りなくなったものをメイクで補おうとしていた。
目元のハリが気になるからアイシャドウを重ねる。
肌のくすみが気になるからファンデーションを厚くする。
顔色が悪く見えるからチークを濃くする。
唇の血色が気になるからリップをはっきり塗る。
気づけば、気になる部分を隠すために、どんどんメイクを足していた。
でも、ある日ふと鏡を見て思った。
もしかしたら、今の私に必要なのは足すことばかりじゃないのかもしれない。
35歳の今だからこそ、引くメイクも覚えたほうがいいのではないか。
そんなことを考えるようになった。
きっかけは、ある日の朝のメイクだった。
その日はいつもより少し寝坊してしまって、ゆっくりメイクをする時間がなかった。
ファンデーションは薄く伸ばして、気になる部分だけコンシーラー。
アイシャドウも淡いベージュを軽くのせる程度。
アイラインは目尻だけにして、マスカラも控えめにした。
チークはほんのり血色が出るくらい。
リップも肌になじむ落ち着いた色を選んだ。
正直、メイクを終えたときは少し物足りなかった。
いつもの自分より地味に見えるんじゃないかな。
もう少しアイラインを足したほうがいいかな。
そんなふうに思った。
でも、少し離れたところから鏡を見てみると、意外にも顔全体がすっきり見えた。
肌も自然に見えるし、目元もいつもよりやわらかい印象。
頑張ってメイクをした日より、なんだか顔が軽やかに見えた。
そのとき初めて、メイクは足すことだけが正解ではないんだと実感した。
もちろん、薄いメイクが必ず若く見えるわけではない。
顔立ちや肌質、好みによって似合うメイクは違う。
ただ、私の場合は、すべてのパーツを強調するより、見せたい部分をひとつ決めたほうが全体のバランスがよくなることに気づいた。
例えば、目元を少し印象的に仕上げたい日は、チークやリップを控えめにする。
反対に、明るいリップを楽しみたい日は、アイメイクをシンプルにする。
肌をきれいに見せたい日は、ファンデーションを重ねるのではなく、下地やコンシーラーの使い方を工夫する。
そんな足し引きの考え方が、今の自分には合っている気がする。
特に35歳になってから、いちばん見直したのがベースメイクだった。
若い頃は、ファンデーションで肌の悩みを全部隠そうとしていた。
毛穴も、色ムラも、シミも、できるだけ見えなくしたい。
だから、カバー力の高いファンデーションを顔全体にしっかり塗っていた。
でも、最近は厚く塗るほど、かえって肌の質感が目立ってしまうことがある。
特に目元や口元は、時間が経つとファンデーションが細かい溝に入り込んで見えることもある。
朝はきれいに仕上がったと思っても、夕方になると疲れた印象になってしまう。
そんな悩みを感じるようになってから、ベースメイクは必要なところだけカバーする方法に変えてみた。
まずは保湿を丁寧にする。
そのうえで、肌の状態に合った下地を薄く広げる。
ファンデーションは顔全体に均一に重ねるのではなく、頬の中心など、きれいに見せたい部分を中心に薄く仕上げる。
気になるシミや赤みは、コンシーラーで部分的にカバーする。
それだけでも、以前より自然な仕上がりを楽しめるようになった。
もちろん、肌の悩みがすべて消えるわけではない。
毛穴も見えるし、小さなシミも残ることがある。
でも最近は、全部隠さなくてもいいと思えるようになってきた。
むしろ、素肌の質感が少し感じられるくらいの仕上がりのほうが、自分らしい気がする。
メイクは欠点をすべて消すためのものではなく、今の自分の魅力を引き出すためのもの。
そんな考え方に変わってきた。
アイメイクも同じ。
35歳になってからは、目元を強調しすぎないことを意識している。
昔は黒のアイライナーで目をぐるっと囲むのが好きだった。
まつ毛もしっかり上げて、ボリュームタイプのマスカラを何度も重ねていた。
でも今は、ブラウン系のアイライナーでまつ毛の隙間を自然に埋めるくらいがちょうどいい。
アイシャドウも、濃い色を何色も重ねるより、肌になじむベージュやブラウンを使うことが増えた。
目元をはっきり見せたいときは、まつ毛の根元を意識して、繊細に仕上げる。
大きく見せることだけにこだわるのではなく、目元全体がすっきり見えることを大切にしたい。
それから、意外と印象が変わると感じているのが眉毛。
以前は、眉毛をしっかり描くことで顔全体を引き締めようとしていた。
でも、濃く描きすぎると、表情がきつく見えてしまうこともある。
最近は、眉毛の足りない部分を少しずつ描き足して、眉頭はふんわり仕上げるようにしている。
眉の形を整えるだけでも、顔全体の印象が変わることがあるから面白い。
35歳になった今は、きちんと感を残しながら、どこか抜け感のあるメイクが好きになった。
ただし、引くことばかり意識すると、今度は顔色が寂しく見えることもある。
だからこそ、足す部分も大切。
特に私が最近意識しているのは、血色感。
ベースメイクを薄くして、アイメイクも控えめにした日は、チークやリップで自然な血色を足すようにしている。
以前は、チークは可愛く見せるためのものだと思っていた。
でも今は、顔色を明るく見せたり、表情をやわらかく見せたりするためにも使いたい。
肌になじむコーラルやローズ系のカラーを少しずつ重ねると、顔全体の雰囲気が変わる。
リップも同じ。
濃い色をしっかり塗る日も好きだけれど、普段は唇の色になじむカラーを選ぶことが増えた。
乾燥しやすい日は、仕上がりの美しさだけでなく、保湿感も大切にしたい。
唇がカサカサしていると、どんなにきれいな色を塗っても気になってしまうから。
こうして考えてみると、35歳のメイクは隠すことよりも、整えることが大切なのかもしれない。
肌の色ムラを整える。
眉の形を整える。
目元の印象を整える。
チークとリップで血色を整える。
全部を完璧に仕上げようとするのではなく、顔全体を見ながらバランスを取る。
そんなメイクのほうが、今の自分を自然にきれいに見せてくれる気がしている。
美容部員として働いていた頃、年齢を重ねても素敵なメイクを楽しんでいるお客様にたくさん出会った。
その方たちに共通していたのは、必ずしも若く見えるメイクをしていることではなかった。
自分の顔立ちや肌の特徴をよく理解していて、似合う色や質感を上手に選んでいること。
そして何より、メイクを楽しんでいることだった。
当時の私は、その姿を見て素敵だなと思っていた。
でも、35歳になった今、その魅力が少しずつ分かるようになってきた。
若い頃と同じメイクが似合わなくなったからといって、悲しむ必要はない。
それは、今の自分に似合うメイクを見つけるきっかけなのかもしれない。
20代の頃には似合わなかった落ち着いたリップが、今はしっくりくることもある。
以前は地味だと思っていたベージュのアイシャドウが、今は上品に見えることもある。
年齢を重ねることで、選べるメイクの幅が狭くなるわけではない。
むしろ、自分に似合うものを見極める楽しさが増えてきたように感じる。
最近は、SNSで若い女性のメイク動画を見ることもある。
新しいコスメや流行のメイクを見るのは、今でも大好き。
でも、昔のように全部真似しようとは思わなくなった。
そのメイクの中から、自分に合いそうな部分だけ取り入れればいい。
新しい色に挑戦したい日は、アイシャドウだけ変えてみる。
ツヤ肌が流行っているなら、顔全体をツヤツヤにするのではなく、頬の高い位置に少しだけツヤを足してみる。
今っぽさを楽しみながら、自分らしさも大切にする。
そんなメイクができるようになったことは、35歳になって感じるうれしい変化のひとつ。
そして、最近はメイクをする前のスキンケアも以前より大切にしている。
若い頃は、メイクの仕上がりが気になると、すぐにファンデーションや下地を買い替えていた。
でも今は、肌が乾燥している日は、まず保湿を見直してみる。
肌の表面が乾いていると、ファンデーションが均一になじみにくくなることもある。
だからこそ、メイクの前に肌を整える時間を大切にしたい。
もちろん、スキンケアをしたからといって、すべての肌悩みが解決するわけではない。
それでも、今の肌の状態に合わせてケアをすることは、メイクを楽しむための大切な準備だと思っている。
35歳になって改めて感じるのは、若々しく見えることと、若作りをすることは違うということ。
私は、20代に戻りたいわけではない。
今の自分を否定したいわけでもない。
ただ、鏡を見たときに、今日の私いい感じだなと思えるメイクがしたい。
疲れている日でも、少し顔色が明るく見えるとうれしい。
人に会う日には、清潔感のあるきちんとした印象でいたい。
休日には、肩の力を抜いたナチュラルメイクを楽しみたい。
そんなふうに、その日の気分や予定に合わせてメイクを変えられる女性でいたい。
以前は、メイクを薄くすることに少し不安があった。
隠したい部分が見えてしまうんじゃないか。
顔がぼんやりしてしまうんじゃないか。
若い頃より地味に見えてしまうんじゃないか。
でも、実際に足し引きを意識してみると、必ずしもそうではないことに気づいた。
足すところを決めて、引くところは思い切って引く。
それだけで、顔全体の印象がすっきりすることもある。
今まで何となく重ねていたアイシャドウを一色減らしてみる。
ファンデーションを薄くして、気になる部分だけカバーする。
アイラインを少し短くしてみる。
チークの位置を変えてみる。
そんな小さな工夫でも、メイクの印象は変わる。
もちろん、毎日うまくいくわけではない。
今日は少しチークを濃くしすぎたかなと思う日もある。
アイメイクが物足りなくて、結局少し足してしまう日もある。
でも、それもメイクの楽しさだと思う。
何度も試しながら、今の自分に合うバランスを見つけていけばいい。
そして最近、もうひとつ感じるようになったことがある。
それは、メイクで若く見せようと頑張りすぎるより、自分が心地よくいられるメイクをしている日のほうが、表情まで自然になるということ。
厚塗りしたファンデーションが崩れていないか気になって、何度も鏡を見るより。
自分に似合う色を使って、気持ちよく一日を過ごせるほうがいい。
アイラインが左右対称か気にしすぎるより、笑顔で過ごせるほうがいい。
そんなふうに考えられるようになった。
35歳という年齢は、私にとって美容の転換期なのかもしれない。
ただ若く見せるためにメイクをするのではなく、今の自分を魅力的に見せるためにメイクをする。
気になる部分を全部隠すのではなく、自分の好きな部分を引き立てる。
そして、メイクを足す勇気だけでなく、引く勇気も持つ。
そんな考え方が、今の私にはとてもしっくりきている。
これから40代、50代になったら、また似合うメイクが変わってくると思う。
肌の悩みも変わるだろうし、好きな色や質感も変わるかもしれない。
でも、その変化を怖がるのではなく、楽しめる女性でいたい。
そのときの自分に似合うメイクを見つけながら、年齢を重ねることを前向きに楽しみたい。
35歳になった今、私が思う若見えメイクは、何もかも隠して若く見せるメイクではない。
肌の質感を生かして、血色を足して、顔全体のバランスを整えること。
そして、やりすぎないことで生まれる自然な軽やかさを楽しむこと。
足すだけでも、引くだけでもない。
今の自分に必要なものを見極めることが、いちばん大切なのだと思う。
明日のメイクは、いつもより少しだけファンデーションを薄くしてみようかな。
アイラインを控えめにして、その分リップに明るい色を足してみようかな。
そんなふうに考える時間が、今はとても楽しい。
20代の頃は、たくさん足すことで自信を持とうとしていた。
でも35歳になった今は、必要なものだけを選ぶことで、自分らしい美しさを見つけていきたい。
若く見えることだけを目標にするのではなく、今の自分がいちばん素敵に見えるメイクを楽しみたい。
そして鏡の中の自分を見て、無理に若作りしなくても、今日の私も悪くないなと思えたらうれしい。
35歳からのメイクは、隠すことより生かすこと。
頑張って盛ることより、足し引きのバランスを楽しむこと。
元美容部員として学んできた知識も大切にしながら、これからは今の自分に似合うメイクを少しずつ見つけていこうと思う。